皆さんは、自宅でトマトソースを作られた時に、
「あれ?ちょっと酸っぱいな」
と、思われたことはないでしょうか。
「ちゃんと本も買った(ネットで調べた)通りに作ったのに。。」
それは、皆様が、間違って作ったわけではありません。どうしたって、酸っぱくなるのです。
「え?ちゃんとトマト缶だってイタリアのホールトマトを使ったし。。」
問題は、トマトの銘柄や値段の高低ではありません。缶の表ではなく、ひっくり返して、缶の裏の成分を読んで見て下さい。ほとんどのトマト缶には、「トマト、トマトジュース、クエン酸」と書いてあるはずです。そうクエン酸です。クエン酸を舐めてみたことのある方はご存知でしょう、まさに酸味の塊です。清涼飲料水にも使われますが、トマト缶のクエン酸は、味付けというよりも、むしろ保存料として使用されます。
市販の料理本の中には、「トマト缶はちょっと煮詰めたくらいでは甘みが出ません。1~2時間は煮込んで下さい。」と書いてあったりします。。私自身、何度となく試してますが、何時間煮込んでも、断じて甘くなりません。たしかに、フレッシュなトマトやプチトマトは煮詰めることで酸味が糖分に代わって、甘みが増してきます(それはそれは美味しいものです)。でもトマト缶の中のクエン酸は添加物です。いくら煮詰めても、クエン酸はクエン酸。酸味は酸味です。クエン酸の量は変わりません。むしろ、煮詰めることで、濃度が濃くなるので、酸味が強くなります。もちろん、煮詰めることでトマトも糖度を上げていきますが、それでは追い付けません。それが、甘酸っぱいではなく、酸っぱいトマトソースになってしまう理由です。
このトマト缶のクエン酸、業界でも常識のようで、プッタネスカでも、オープンの折、クエン酸の入っていないトマト缶はないかと、商社の担当と打ち合わせしても、「そんなトマト缶はありません!」と、怒られたくらいです。諦めずに探して、三社目の商社でやっと見付けることができました。その三社目でも、社員は分からないというので、私が直接メーカーの倉庫に入れてもらって発見したくらいです。
別にこんな話もあります。友人のソムリエがフランスにいた頃に飲んだ、酸化防止剤の入ってないワインは、本当に美味しかった、と私に語ってくたことがあります。残念ながら、添加物の入っていないワインは日本に輸入できないそうです。その時は、なんとなく聞いていただけだったのですが、その後、メルシャンが、酸化防止剤無添加のワインを発売して、大ヒットさせました。国産ワインだからこそできたのでしょうが、その時にあの時友人の言っていたのはこのことだったのかと思い出しました。
もうひとつは、ピザチーズについてです。一部の専門店ではそんなことはありませんが、いまだにほとんどの外食店で、ピザやグラタン、パスタにでさえ、使われているのは、いわゆるプロセスチーズです(より安価なチーズフードの場合すらあります)。プロセスチーズは複数のチーズを混ぜ、加熱して発酵を止めて、乳化剤、安定剤を混ぜ、食感をよくしたものです。家庭でもお馴染みの糸引きの良いピザ用のチーズやスライスチーズです。このチーズは、糸引きの食感こそ良いものの、味は均一で厚い。なので、ナチュラルなトマトソースでは味が繊細なので、チーズに潰されてしまいます。これでは、ピザ一面がすべて同じ味になってしまいます。そもそも、ピザは面の中に、いろいろな具材が点在して、味の変化があるからこそ、飽きずに最後まで楽しめるのです。そこに、まるでフタをするようにピザチーズが覆いかぶさり、それに負けじと、トマトソースよりもクセの強い味付けをしたピザソースがたっぷりと塗ってある。これでは、せっかくの具材がすべて潰されてしまいます。
チーズは、言わば、日本人で言う味噌や醤油です。ヨーロッパが育んだ発酵文化です。冷蔵庫などない時代にどうやって食べ物を保存するか、それは、人類が数千年かけて、試行錯誤を重ねて、研鑽してきたものです。味噌も醤油もチーズも、そこで出来た発酵調味料は、本物の、天然の添加物です。工業的に作られたチーズとは味わいがまるで違います。私達が海外でインスタント味噌汁「あさげ」を出されて、「これが日本の伝統のスープだ!」と言われたら、「いやいや、それはちょっと、、」となるでしょう。それと同じことです。
もちろん、すべての添加物が悪いと言うつもりはありませんし、わたしはむしろ擁護派でした。劇的に人類を飢餓から救う魔法の粉でもあります。でも、その使われ方が、生命を守るというより、もっぱら経済的な利益のためにだけ使われて、フェイク食材やかさ増し、かさ増し分の味の補填などが食の世界では横行しています。わたしが店を出す時に、コンセプトとして「家庭的」であること、を掲げたのは、家庭料理は、なによりも安全でなければならない、と言う思いからです。自分の家族に怪しい食材を出すはずはありませんし、また、そのようにお客さまに対しても、ご提供させていただきたい、と思っています。そして、何よりも、先の3つの例に、お話させて頂いたように、
「安全は、美味しい」
のです。
田舎町の、小さな店ではありますが、自身の信念とスタッフの信頼とお客様の期待を裏切ることのないように、さらに努力していきたいと思っています。
Pasta alla PUTTANESCA
斎藤